17歳(棋聖獲得時の年齢)の高校生プロ棋士の藤井聡太七段が、渡辺明三冠から棋聖のタイトルを奪取しました。
屋敷伸之九段の持つ、18歳6ヶ月のタイトル獲得年齢を30年ぶりに更新したことで、様々なメディアで取り上げられています。
(出典 Abema TV 将棋チャンネル)
将棋にそれほど詳しくない方でも、藤井聡太七段・・・いや、藤井棋聖の名前をご存知の方は多いでしょう。
もちろん私も藤井棋聖を応援しているのですが、それ以上に応援しているのが、藤井棋聖の王位戦の対戦相手、木村一基王位です。
- 藤井棋聖の王位戦の相手 木村王位とは?
- 永世名人と並ぶ記録保持者
- なぜかタイトルを取れなかった木村王位
- 46歳3ヶ月での初タイトル獲得
- 棋力は年齢とともに衰える?
- 羽生世代との戦い
- 解説名人、将棋の強いおじさん、千駄ヶ谷の受け師
- 百折不撓の棋士 木村王位
- まとめ ー 木村王位を心から応援
- おまけ ー 木村王位の体育座り
藤井棋聖の王位戦の相手 木村王位とは?
(出典 公益社団法人日本将棋連盟)
木村王位は日本将棋連盟のデータベースによると1973年(昭和48年)生まれですので、今年で47歳です。棋士としては年配の部類に入るといっても良いでしょう。
その木村王位ですが、将棋界初の記録をいくつか持っています。
- 初タイトル獲得の最年長記録
- タイトル未獲得の最多タイトル挑戦
- タイトル未獲得の最多勝利記録
木村王位が王位のタイトルを獲得したのは、2019年の第60期の王位戦でした。そのときの年齢が実に46歳3ヶ月です。それまで初タイトル獲得の最年長記録は、有吉道夫九段の37歳6ヶ月ですので、それを大幅に更新する最遅記録でした。
つまり、今年の王位戦は最年少タイトルを獲得した藤井棋聖と、最年長で初タイトルを獲得した木村王位との戦いなのです。
永世名人と並ぶ記録保持者
木村一基王位が強い棋士なのは間違いありません。順位戦のA級には5期、竜王戦では1組に10期も在籍しています。タイトル挑戦もなく、A級に一生入ることのできない棋士も多いなか、一流のプロ棋士といって間違いありません。
2001年には年間61勝を達成しました。過去に年間60勝を達成したのは、将棋棋士の中でも4名しかいません。
- 羽生善治九段(永世七冠)
- 森内俊之九段(永世名人)
- 藤井聡太棋聖
そして木村一基王位です。永世名人や、今後の将棋界で活躍するであろう藤井棋聖と並ぶ記録を持っているのです。
なぜかタイトルを取れなかった木村王位
そんな木村王位ですが、タイトル獲得までは茨の道でした。過去のタイトル戦を表にしてみました。
2005年 第18期 竜王戦
対局者 | 第一局 | 第二局 | 第三局 | 第四局 |
渡辺竜王 | ○ | ○ | ○ | ○ |
木村七段 | ● | ● | ● | ● |
渡辺明竜王が木村七段を4勝0敗のストレートで破り、防衛を果たしました。新進気鋭の渡辺竜王は21歳、木村七段は32歳にして初のタイトル挑戦でした。
残念ながら、結果は木村七段のストレート負けでした。
2008年 第56期 王座戦
対局者 | 第一局 | 第二局 | 第三局 |
羽生王座 | ○ | ○ | ○ |
木村八段 | ● | ● | ● |
羽生善治王座が木村八段を3勝0敗のストレートで破り、防衛を果たしました。
2009年 第80期 棋聖戦
対局者 | 第一局 | 第二局 | 第三局 | 第四局 | 第五局 |
羽生棋聖 | ○ | ● | ● | ○ | ○ |
木村八段 | ● | ○ | ○ | ● | ● |
木村八段は第三局目まで2勝1敗と、羽生棋聖(当時は名人、王座も合わせ三冠)相手にタイトル獲得まであと一歩のところまで迫ります。
ところがその後の第四局、第五局と連敗し、初タイトル獲得はなりませんでした。
2009年 第50期 王位戦
対局者 | 第一局 | 第二局 | 第三局 | 第四局 | 第五局 | 第六局 | 第七局 |
深浦王位 | ● | ● | ● | ○ | ○ | ○ | ○ |
木村八段 | ○ | ○ | ○ | ● | ● | ● | ● |
木村八段にとって第50期の王位戦は非常に惜しい戦いでした。第三局まで三連勝し、初タイトルは確実かと思われたのですが、第四局から四連敗を喫し、初タイトルを逃しました。
2014年 第55期 王位戦
対局者 | 第一局 | 第二局 | 第三局 | 第四局 | 第五局 | 第六局 | 第七局 |
羽生王位 | ● | ○ | 持将棋 | ○ | ○ | ● | ○ |
木村八段 | ○ | ● | 持将棋 | ● | ● | ○ | ● |
第55期の王位戦でも第三局は持将棋など、羽生王位(当時は四冠)相手に健闘しますが、2勝4敗1引き分けという結果でした。
※持将棋・・・お互いの王将(玉将)が入玉し、双方ともに詰む可能性がなくなったときに、点数によって勝敗を決めること。点数に大きな差がなければ引き分けとなる。
2016年 第57期 王位戦
対局者 | 第一局 | 第二局 | 第三局 | 第四局 | 第五局 | 第六局 | 第七局 |
羽生王位 | ● | ○ | ○ | ● | ● | ○ | ○ |
木村八段 | ○ | ● | ● | ○ | ○ | ● | ● |
翌々年の第57期の王位戦でもタイトル獲得のチャンスはありました。相手はまたもや棋界最強といってもいい羽生王位でした。
その羽生王位相手に、第五局が終わった時点で3勝2敗と、タイトル奪取に王手をかけます。
ところがそこから2連敗をし、またもやタイトル獲得のチャンスを逃します。このとき、木村八段は既に43歳です。もはや最後のタイトル獲得のチャンスを逃したかと思いました。
46歳3ヶ月での初タイトル獲得
(出典 YouTube)
そして迎えた第60期王位戦で、木村九段がついに初タイトルを獲得します。46歳3ヶ月という史上最年長でのタイトル獲得でした。
2019年 第60期 王位戦
対局者 | 第一局 | 第二局 | 第三局 | 第四局 | 第五局 | 第六局 | 第七局 |
豊島王位 | ○ | ○ | ● | ● | ○ | ● | ● |
木村九段 | ● | ● | ○ | ○ | ● | ○ | ○ |
2連敗したあとに2連勝し、成績を五分に戻します。第五局は敗北して先に王手をかけられるものの、最後は2連勝でついに初タイトルを獲得しました。
木村新王位はタイトルを獲得したあとの感想戦で泣き、記者会見でも涙を流しましたが、何も恥じることはなかったと思います。
年齢なんて関係なく、いつでも泣いて良い。
実際にもらい泣きしたファンも大勢いました。私もその一人です(^^)
棋力は年齢とともに衰える?
棋力は年齢とともに衰えるといわれています。永世七冠、通算タイトル99期、通算勝利数1位で、将棋界の第一人者といっていい羽生善治九段が、すべてのタイトルを失ったのが48歳のときです。
将棋は身体を動かす競技ではないので、故大山康晴十五世名人のように、年齢を経ても活躍する棋士は存在します。
それでも棋士にとって一番強い時期は、実戦経験も豊富な20代後半から30代前半ではないでしょうか。
実際に現在の棋界のタイトルホルダーはすべて20代、30代で、(藤井棋聖は10代!)、40代のタイトルホルダーは木村王位だけです。
ぜひとも木村王位には踏ん張って欲しいと思います。
羽生世代との戦い
(左から森内九段、羽生九段、佐藤九段。画像の出典は公益社団法人日本将棋連盟)
木村王位が若い頃から強かったのは間違いありません。前述した年間61勝を達成したのは28歳の時でした。
若い頃から強かった木村王位がタイトルを取れなかったのは、一つ上に「羽生世代」と呼ばれる黄金世代が存在していたからでしょう。
タイトル挑戦はもちろん、それに出場するための予選、トーナメント、挑戦者決定戦などで、ことごとく羽生世代とぶつかりました。
実際に2001年には竜王戦の挑戦者決定戦三番勝負で、羽生四冠と対戦しています。このときに木村五段は羽生四冠を一手詰めに追い込んでいます。羽生四冠の頓死事件と呼ばれたりしていますが、それだけ木村五段のプレッシャーがあったのだと思います。
解説名人、将棋の強いおじさん、千駄ヶ谷の受け師
そんな木村王位には様々なニックネームがあります。
軽妙洒脱な盤面解説から、解説名人と呼ばれています。ある解説で「王位戦の挑戦者をどう考えていますか?」と聞かれて、
「全員、負ければ良い」
「今年は挑戦者なし!」
「そうすれば私の王位は安泰!」
といって会場を笑わせたりしています。
メガネをかけ、少し頭髪の薄くなった冴えない風貌から(木村王位ファンの方、すみません(^^;)、将棋の強いおじさんというのもニックネームの一つです。
実際に木村王位の風貌は、大阪なら天満、東京なら新橋辺りの飲み屋にいるサラリーマンにまぎれても何の不自然もないでしょう。
そして攻めよりも受けを重視する棋風から「千駄ヶ谷の受け師」とも呼ばれています。将棋で最強の駒である竜を受けに使ったり、取られたら負けの王将の頭で受けたりもしています。
王位を獲得した第60期王位戦の最終局では、豊島王位の竜での王手に対して、飛車で受けたのが最終手でした。もちろん勝負は決まっていた場面でしたが、竜での王手に対して飛車で受けるあたりに、受け師としての心意気があるように思います。
百折不撓の棋士 木村王位
そして木村王位を表すもうひとつの言葉が百折不撓です。
百折不撓・・・何度失敗をしても、志を曲げないこと
木村王位にこれほど合う言葉もないと思います。タイトル戦に挑戦すること実に7回。そのうち6度は失敗し、獲得がかかった対局で通算8連敗するなど、タイトルを逃し続けていました。
それでも木村王位は諦めることなく挑戦し続け、ついにタイトルを獲得したのです。
まとめ ー 木村王位を心から応援
私自身は将棋はそれほど指しません。いわゆる「観る将(みるしょう)」です。将棋の対戦を観て楽しむ人ですね。ボクシングや格闘技が好きな人が、自分は格闘技をしないのに観戦するのは好きなのと近い感覚かもしれません。
そして木村王位を心から応援しています。もちろん藤井棋聖も応援しています。藤井棋聖はこれからの将棋界の中心になる才能ある棋士です。今後も大いに活躍して欲しいし、羽生善治九段を超えるような存在になって欲しいとも思います。
それでも「おじさんの意地を見せてやれ!」という気持ちで、木村王位を応援する観る将が一人くらい居ても良いですよね(^^)
おまけ ー 木村王位の体育座り
この記事を書くにあたって、手元の本やらネットで色々と検索していたのですが、「木村王位」をGoogleで入力すると、予測変換で「体育座り」と出てきます。
はて、木村王位と体育座りって何だろう?、と思ったら、王位戦第二局の感想戦のシーンでした。
(出典 Abema TV 将棋チャンネル)
藤井七段に逆転負けを喫して少し拗ねているのかもしれません。
次局も応援していまーす(^^)/
※追記
第61期王位戦は藤井棋聖が4連勝で王位を獲得されました。二冠となった藤井棋聖を祝福するとともに、木村王位がまたタイトルを獲得されることを心から願っています。
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