ポケモンのキャラクターなら5分で作れるだろう、という発言を目にしました。Twitterでの発言で、おそらくネタか釣り目的で書き込まれたのだと思います。
どんなに初心者であっても、ポケモンのキャラクターが5分で作れるはずがないことはすぐに分かりますよね。ただ、発言内容が極端だったこともあり、その発言はかなりバズっていました。
5分という時間はともかく、ゲームの中に登場する3Dのキャラクターがどういう工程で、どれくらいの製作期間がかかっているのか、ご存知ない人も多いと思います。
今回はゲームの中に登場するキャラクターが、どのような工程を経て作られているのかを解説してみます。なお、ここに解説している工程は私個人の経験を元にしたものですので、他のゲーム会社では異なる可能性があることをご理解いただければと思います。
- デザインの作成 ラフと三面図
- モデリング キャラクターの造形
- UV テクスチャをどこに貼るのか
- テクスチャ キャラクターの色塗り・・・だけではない
- スケルトン ボーン(骨)をキャラクターに埋め込む
- スキンウェイト ボーンの影響範囲を調整
- リグ アニメーターが動かしやすいように設定
- まとめ ー ゲームのキャラクターができるまで
デザインの作成 ラフと三面図
デザインラフの作成
まずはキャラクターの考案です。プランナーもしくはディレクターがキャラクター案を考えます。この時点ではテキストベースで特徴が書かれていることが大半です。
- 男性
- 20代前半
- 身長・体重
- メガネを着用
- 制服っぽい服装
- 刀を持っている
上記は私が思いつきでテキトーに特徴を書き連ねたものです。実際はもっとキャラクターの特徴が分かるように記載されています。
上記のようなテキストで書かれたものを参考に、デザイナーがラフ案を作成します。
絵心のあるプランナーさんだと、自分でラフを描いたりされることもあります。そうでなくてもデザイナーがイメージしやすいように、インターネットから拾ってきた近い画像が貼っつけられていたりします。
三面図の作成
デザインラフが完成したら、それをもとに三面図を作成します。上記の画像は参考用に、BOOTHというサイトからお借りしました。BOOTHはクリエイターが作品を登録・販売できるサイトです。
三面図は全面、側面、背面ですべて一致している必要があるので、慣れたイラストレーターさんでないとかなり苦労したりします。
そして三面図は必ずしも作成するとは限りません。アセットと呼ばれる背景のオブジェクトだったり、キャラクターが携帯する武器などは、ラフから直接作成することもあります。
あるプロジェクトの場合はラフ案→スケッチ→モデル作成という手順でした。このときのスケッチとはキャラクターの詳細や背面なども分かるように書かれたイラストでした(でも三面図ではない)。このあたりはプロジェクトの状況に左右されますね。
ここまでは2Dでの作業です。
モデリング キャラクターの造形
キャラクターを実際に造形する作業がモデリングです。
手前味噌ですが、自分が作成中のキャラクターの画像を持ってきました(半年以上前からずっと作成中(^^;)。
上記の画像は三面図を描くのが面倒だったので、写真を参考にキャラクターの顔をモデリングしている最中です。
キャラクターを作成する、というとこのモデリングを思い浮かべる人が多いと思います。もちろんそれは間違ってはいないのですが、モデリングはキャラクター作成の一工程で、実際にはそれ以外の作業の方が大変だったりします。
UV テクスチャをどこに貼るのか
モデルを作成し終わったらUV展開を行います。UV展開とはこれから描くテクスチャをモデルのどこに貼り付けるのかを設定する作業です。
参考のモデルはフリー素材のスパイダーマンを使用させていただきました。制作された方に感謝!
Kiel Figgins – Animator – Store
今回は完成されたモデルを使用しているので、すでにUV展開は終わっています。実際は上記の画像の右のようなチェッカーのような画像を用意して、テクスチャがモデルのどこに貼られるかを設定する必要があります。
上記の画像はUVマップと呼ばれるもので、これを基にテクスチャを描き込んでいきます。
このスパイダーマンは顔をアジの開きのように展開していますが、スマホなどのローポリモデルの場合は顔の片側だけのUVを作成して、反対側は反転して表現することもよくあります。
テクスチャ キャラクターの色塗り・・・だけではない
モデリング以上に時間がかかるのがテクスチャの作成です。私の知人の3DCGデザイナーは、モデル3割、テクスチャ7割といっていました。それくらいテクスチャの作成には時間がかかるということですね。
このテクスチャを何枚必要とするのかは、対象とするゲーム機によって大きく左右されます。PS4のようなハイエンド機だと7-8枚になることもありますし、携帯ゲーム機やスマホの場合は1枚ですべて表現したりします。
以下に代表的なテクスチャの種類を解説します。
デフューズ(ベースマップ、カラーマップ)
デフューズマップとはキャラクターの色などのベースになるテクスチャです。プロジェクトによってはベースマップといったり、カラーマップと呼んだりします。ほとんどの人が考えている「ゲームキャラクターのテクスチャ」とはこれのことですね。
ノーマルマップ(法線マップ)
ノーマルマップとはキャラクターの凹凸を擬似的に表現するためのテクスチャです。法線マップと呼ぶこともあります。
このテクスチャは直接描くのではなく、多くの場合はポリゴン数の多いモデルを作成して、そこからベイクします。要はポリゴン数の多い詳細なモデルの情報を、3Dツールで計算させてテクスチャに落とし込むのです。
スペキュラーマップ
スペキュラーマップとはキャラクターの光沢を表現するためのものです。
たとえば布でもシルクは光沢があるのに、ジーンズでは光沢がほとんどありません(実際にはジーンズにも光沢は存在する)。キャラクターによって明るい部分と暗い部分を象徴的に表現するために作成するのがスペキュラーマップです。
ベイクという言葉の解説
ちょっとここでベイクという言葉について解説します。
3DCGにおいてベイクという言葉は様々な場面で使用されます。上記のノーマルマップ作成でも使いますし、同じような作業でアンビエントオクルージョンを3DCGツールに計算させて、テクスチャに落とし込む作業もベイクと呼びます。
リグに付けたモーションをボーンに焼き付ける作業もベイクです。少し大雑把に説明すると、3DCGでは一般的に後戻りできない作業をベイクと呼ぶことが多いようです。
物理ベースレンダリングの場合は
物理ベースレンダリングについては、解説するとそれだけで本が一冊かけてしまうので、ここでは割愛します。実は書いている私自身が知識不足なので、きちんと解説できないというのが本音なのですが(^^;
ハイエンド機などで物理ベースレンダリング用のテクスチャを作成する場合は、
- アルベド
- オクルージョン
- ラフネス
など、上記とは異なるマップを持ち方をします。
スケルトン ボーン(骨)をキャラクターに埋め込む
※この画像は私が作成した参考画像です。
キャラクターを動かすときは、ポリゴンでできたモデルを直接動かすわけではありません。ボーンと呼ばれる骨組みをキャラクターの中に仕込んで、その骨組みを動かすことでキャラクターをアニメーションさせます。
骨に該当する部分をボーン、関節をジョイント、全体の骨組みのことをスケルトンと言います。
実はこの作業はテクスチャやUVの作成よりも先にすることがあります。その理由は実際に関節を動かしてみて、ポリゴンの割り方を確かめてからテクスチャ作成を進めた方が効率が良いケースがあるのです。
スキンウェイト ボーンの影響範囲を調整
キャラクターを動かすための骨組みをモデルに入れたあとは、その骨組みがモデルのどの部分に影響を及ぼすかを調整する作業が必要です。
骨組みをモデルに入れて調整する作業をスキニングといい、モデルのポリゴンメッシュの頂点にどれだけ骨組みが作用するかをスキンウェイトと言います。このスキンウェイトを調整する作業を、単にウエイトとか、ウエイト調整といったりもします。
最近の3Dツールは優れていて、スキニングするだけである程度スキンウェイトも自動で設定されます。ただ、思い通りにならないことの方が多いので、どうしても調整が必要になります。
リグ アニメーターが動かしやすいように設定
スケルトンという骨組みだけでは、モーションデザイナー(アニメーター)がアニメーションを付けづらいので、アニメーターが作業しやすいようにコントローラーを作成します。
このコントローラーのことをリグ、もしくはコントロールリグと言います。上記の画像だとスパイダーマンの周りにあるワイヤーフレーム状のものがリグになります。
大きな会社ではリガーと呼ばれるこの作業専門の職種の人も居たりします。リグの組み方一つで、アニメーションの作りやすさに影響するので重要な作業です。いや、どれも重要な作業なのですが。
まとめ ー ゲームのキャラクターができるまで
実際に一つのキャラクターができる上がるまで、これだけの工程が必要です。
もちろんスマホゲームなのかハイエンド機なのかで、作業にかかる日数は大きく変わります。ハイエンド機向けの対戦格闘ゲームのキャラクターだと、3ヶ月以上かけて一体を作成することもあります。逆にスマホ用のガチャで出てくるノーマルクラスのキャラクターだと15日くらいのときもあります。
キャラクターの造形が複雑な場合は、ユレモノ(髪の毛や服)と呼ばれるセカンダリモーションの設定をしたり、表情を表現するためのフェイシャル(顔のアニメーション)の設定作業も必要です。
将来的に3Dツールが進化すれば、上記のような作業が短縮される可能性はもちろんあります。でも、5分というのはどんなにツールが進化しても、実現は無理でしょう。
VRグラブを手にはめて、こねるようにモデリングやテクスチャの作成ができるような時代が、いずれはくるのかもしれませんが・・・・それはもう少し先の話かな。
ではでは、今日はこの辺で(^^)
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