タイトルにもある軍配者とは、軍師に加えて観天望気や占いを担当した存在です。後に軍事のみを担当する専門職が軍師と呼ばれるようになります。軍配者という言葉は著者のオリジナルだと思いますが、当時は占いも重要な要素のひとつだったことは間違いないので、必然的に軍配者も重んじられたという設定になっています。
さて、本書は武田信玄の軍師として有名な山本勘助の物語です。山本勘助は伝説的な軍師としてその実在が長年疑われていましたが、いくつかの資料が発見されたことにより、近年はその存在が確実視されています。
2007年の大河ドラマ「風林火山」の主人公もこの人ですね。
軍配者シリーズ 三部作の中編 四郎左の物語
富樫倫太郎氏による軍配者シリーズは三部作になっています。
- 早雲の軍配者 風魔小太郎
- 信玄の軍配者 山本勘助
- 謙信の軍配者 宇佐美定満?
謙信の軍配者の宇佐美定満に?マークがついているのは、まだ読んでいないからです。謙信の軍師というと宇佐美定満くらいしか思いつかないのですが、他に誰か居たかな?
早雲の軍配者については書評を書いてますので、読んでいただけると嬉しく思います。
本作では本当の山本勘助は亡くなっており、小者だった四郎左が山本勘助に成りすまして足利学校で学び、信玄の軍師として活躍するというストーリーです。
ここまでで・・・戦国時代に詳しい人にはツッコミどころが満載だと思います。
- 風魔小太郎がなぜ軍師?
- 四郎左って誰?
- 足利学校と何の関係が?
風魔小太郎は北条家に代々仕えたといわれている忍者「風魔」の棟梁ですね。風魔の棟梁は代々小太郎を名乗ったので、実際には風魔小太郎は何人も居たといわれています。もちろん軍師ではないのですが、その辺りは小説なので、その設定を楽しめばいいのでしょうね。
四郎左という架空の人物が本編の主人公で、元々は山本勘助に仕えた奉公人という設定です。
山本勘助が足利学校で学ぶために駿河を出立したあと、盗賊に襲われて勘助本人は殺されてしまうのですが、生き残った四郎左が勘助に成りすまして足利学校で軍学を修める、という筋立てになっています。
ちなみに足利学校は日本最古の大学と呼ばれた学校で実在しています。
最盛期には3,000人の学生が居たといわれています。卒業生で著名な軍師は居なかったように記憶しています。本作では軍師の養成学校のように扱われていますが、実際はそうではなく、占いや観相を主に教えていました。
まあ、歴史「小説」なので、この辺りは物語の中の設定として楽しめば良いかと。
武田信玄の信濃侵攻の描写が良い
この小説は、武田信玄(当時は武田晴信)による信濃侵攻を小説で楽しみたい、という人にお薦めです。
大河ドラマでいうと山本勘助が主人公の「風林火山」や、もっと遡って中井貴一主演の「武田信玄」が好きな方であれば、楽しめると思います。
武田信玄というと甲斐と信濃がその領土という印象が強いと思いますが、信玄が家督を継いだときは、武田家はまだ甲斐一国の国主でした。
武田信玄による信濃侵攻は1542年の諏訪への出兵に始まり、北信濃の村上義清の追放の1553年まで、約10年以上もの歳月がかかっています。
そして武田家による信濃侵攻は、決して容易ではありませんでした。
司馬遼太郎氏が、
- 信濃は山間の地が多い
- 小豪族が割拠した
- 局地戦が上手い武将を多く排出した
という意味の文章を書いておられたと思いますが、その代表的な存在が真田一族であり、信玄を二度破ったといわれる村上義清でしょう。そのため信玄による信濃侵攻は苦難の連続でした。
その信濃侵攻で活躍した山本勘助の活躍が楽しめるのが本作です。
まとめ ー 三部作の最終舞台は川中島の合戦かな
軍配者三部作の最終作は謙信の軍配者なので、川中島の合戦が舞台になるのでしょうね。
上杉謙信と武田信玄が激闘を繰り広げる川中島の合戦を舞台に、山本勘助になった四郎左と、宇佐美定満になるであろうライバル役の曾我冬之助という小説オリジナルの人物の活躍を楽しみにすることにします。
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